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NEW LEADER LIBRARY(`23/8)


満州の名もない都市で…
倒錯したヒロイズムと自己陶酔が
常軌を逸した作戦を取らせたのだろう

『地図と拳』 小川哲著(集英社)

 本書は168回直木賞受賞作。帯に「日露戦争前夜から第二次大戦までの半世紀、満州の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮」とある。

 満州国。日本が満州事変によって作り上げた傀儡国家というのが一般的な理解と思うが、清崩壊後日本が半植民地として満州を支配するに至るまでが複雑すぎて、十分に解明されているとは言えない。逆にそれゆえ、檀一雄の『夕日と拳銃』に代表されるような想像力を駆使した馬賊小説や関東軍や満州鉄道などを舞台にした小説や伝記などがあふれた。

 なかでも船戸与一の『満州国演義』は満州で日本人たちが何をしたかを総括しようとした大作だが、本書は日本人を主人公にしながらも、満州の架空の都市に焦点を絞り、その興廃を15の年月で輪切りにして描き、そこに生きた満州族や漢人、ロシア人、抗日ゲリラの指導者など多様な人物群を描く意欲作だ。

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