人事権支配が招いた官僚のモラル低下 権力におもねり、右顧左眄(うこさべん)、消えたエリート

旧大蔵省のノーパンしゃぶしゃぶを彷彿
違うのはパンツをはいて堂々と接待漬け

 まるで底なし沼のような「官・業癒着」。週刊文春が報じた菅義偉首相の長男が勤務する放送事業会社の東北新社による総務省幹部への接待問題は、NTTに飛び火し、官僚に止まらず、総務相、総務副大臣経験者らまで幅広く接待漬け。疑惑を次々と伝える文春砲によって、総務省のずさんな調査や法令違反の見逃しが白日の下にさらされ、放送・通信行政に対する国民の不信感は膨らむ。

 ふるさと納税や携帯電話料金の引下げを推進してきた菅首相にとって、総務省は霞が関における最大の足場、絶大な影響力を持つ。それだけに、「利害関係者とのずぶずぶの特殊な関係」(立憲民主党筋)の表面化は、政権に計り知れない打撃を与えた。安倍晋三前首相時代の森友、加計両学園、桜を見る会問題を想起させ、安倍、菅政権下で権力の一極集中が、緊張感に乏しい状況を招き、モラルの低下が官僚にも蔓延していたことが証明された。後手に回る新型コロナ対応に加え、接待疑惑が襲いかかる中、自民党内では「このままでは、じり貧になる」(中堅)と、早期の衆院解散・総選挙論まで飛び交い始めた。

 菅首相は2月24日、東北新社の総務省幹部接待問題の調査報告と処分発表を受け、「私の長男が関係して結果的に違反行為をさせてしまった。大変申し訳なく、国民におわびをしたい」と陳謝した。文春報道当初は「長男とは別人格」と突き放していたが、問題のあまりの根深さに、謝らざるを得なかった。

 総務省の調査報告によると、総務省の衛星放送の認可を受けた子会社の役員を兼務する首相の長男・正剛氏はじめ東北新社幹部らとの会食は、国家公務員倫理法に基づく倫理規程が禁じる利害関係者からの接待に当たると違法性を認定。接待は2016年7月~20年12月にかけて39件に及び、総務省側の出席者は、放送行政を所管する情報流通行政局を中心とした幹部13人だった。事務次官級の谷脇康彦総務審議官への接待は4回、飲食代やタクシー券、手土産など計約11万8000円。菅首相に抜擢された山田真貴子内閣広報官も総務審議官当時に和牛ステーキや海鮮料理など1回の飲食代に何と約7万4000円の接待を受けていた。与党内からも「信じ難い」と驚きの声が漏れた。首相の長男は、谷脇、山田両氏との会食を含め何と21件に参加していた。

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