さよなら菅政権 1つの大きな失敗と3つの誤算 独善的な政治からの転換なるか

あまりにあっけない退陣
政権基盤の脆弱さを露呈

 「たたき上げ宰相」の結末は、あまりにあっけなく、惨めだった。菅義偉首相は新型コロナウイルス対策に専念したいとして、自民党総裁選の不出馬を表明、わずか1年で政権の幕を引いた。東京五輪・パラリンピックを強行した結果として、新規感染者は連日2万人を超える事態に対策が後手に回り、迷走したツケが一気に噴出、内閣支持率の低下を招く。「菅首相では衆院選が戦えない」という自民党内の声に抵抗する力は残っていなかった。

 昨年の総裁選で主要派閥の雪崩現象の支持を受け圧勝しながら、同志的な結合が希薄ゆえの政権基盤の脆弱さを露呈。盟友だったはずの安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相ら実力者からも、あっさりと見放された。退陣を受けた自民党総裁選には、岸田文雄前政調会長、河野太郎行政改革担当相、高市早苗元総務相、野田聖子幹事長代行の4人が立候補、久しぶりのガチンコ勝負に突入した。長期に渡った独善的な安倍・菅政治と決別し、終焉させるのか、それとも安倍氏らが大きな影響力を保持したまま、単なる表紙替えで終わるのか。自民党にとって岐路の党首・首相選びとなる。

 「まさに新型コロナとの闘いに明け暮れた日々だった。国民の命と暮らしを守る、この一心で走り続けてきた」。「国民にとって当たり前のことを実現したい。この1年、そうした思いで長年の課題に取り組んできた。(中略)すべてをやり切るにはあまりにも短い時間であったが、子供や若者、国民の皆さんが安心と希望を持てる未来のために、道筋を示すことができたのではないか思っている」

 9月9日、東京都などに対する緊急事態宣言の延長決定の説明を兼ねた退陣の記者会見で、首相の内心は別にしても無念さというよりも、重圧から解放されたのか、むしろさばさばとした表情で語った。

 短命政権に終わった要因は1つの大きな失敗と3つの誤算だ。組織が崩壊していく時に共通する本質的な問題が浮かび上がる。

 失敗は言うまでもなく、コロナ対応だ。「Go Toトラベル」へのこだわりに代表される甘い見通しに依拠した対策は「医療体制を確保できなかったというのは大きな反省点」と首相自身も認めざるを得なくなった。感染が比較的落ち着いていた時期に体制を整備できず、頼みのワクチン接種開始も出遅れ。酒類提供制限や、唐突に打ち出した重症や重症化リスクのある中等症以外を原則自宅療養とする入院制限の方針を巡る混乱など、首相への信頼は失墜した。

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