誰がタリバーンの全土制圧を許したのか 「サイゴン陥落」の再現、「嘆きのアフガン」

「全土を蹂躙、支配する可能性は極めて低い」
バイデンの甘い見通しがタリバーン跋扈

 アフガニスタンからの米軍引き揚げは、ジョー・バイデンにとって、大統領就任以来最大の失態となった。9・11同時多発テロ首謀者のオサマ・ビン・ラディン率いるイスラム過激組織アルカイダ殲滅のため、当時同グループを匿っていたやはりイスラム主義組織タリバーンが政府を形成していたアフガニスタンに米国が宣戦布告したのは2001年。ビン・ラディンの暗殺と、タリバン政府を追い出して親米政府の樹立には成功したものの、タリバーンや他のイスラム反米組織の根強い抵抗から米国の戦争史上最も長い「20年戦争」になっていた。

 これを終わらせて、昨年秋の大統領選挙の目玉の1つにすべくドナルド・トランプ前大統領が昨年2月、タリバーンと今年5月までに米兵を完全撤退する代わりに、親米政府とタリバーンで話し合い、新政府を樹立することを骨子とする「終戦合意」を結んだ。トランプは合意当時1万3000人いた駐留米兵を段階的に削減し、バイデン就任時には3500人に減らしていたが、削減と同時にタリバーンが息を吹き返し、治安が悪化していった。ただ、バイデン自身も従来から「撤退論者」であるため、合意の骨格は引き継ぐ一方、現地在住米国人の引き揚げと、この20年間欧米諸国の現地機関に協力して働き、撤退後のタリバーン支配を嫌悪するアフガニスタン人の国外移住の安全を確保するため、撤退期限を8月末まで引き延ばした。

 この延長幅は同時多発テロ丸20年となる9月11日前に完了させたいとのバイデンの強い思いを反映させたものだ。そしてそれに向けてまず7月2日、アフガン戦争遂行の最大拠点となっていた首都カブール近郊にあるバグラム空軍基地からの米軍撤退を遂行したが、これを機にタリバーンがさらに各地で勢力を広げ、社会不安も一層増大。それでもバイデンは米国人と米国協力アフガン人の安全円滑な国外退避は可能との強気の姿勢を崩さなかった。

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