米中戦争の中での世界的な半導体不足 自給力向上を打ち出す米国、主客転倒続く日本

🔻「世界の半導体工場」台湾TMCを狙う中国
     米国は中国並み補助金で自給力アップ

 昨年、米トランプ前大統領が中国の半導体産業に経済制裁をかけてから、世界の半導体市場が混乱している。さらに今年、日本のルネサスエレクトロニクスの那珂工場と旭化成の宮崎工場が火災を起こし、海外でも台湾のTSMC工場の火災や、米テキサス州でも寒波によってサムスン電子などの州内の半導体工場が閉鎖。加えてオランダNXPセミコンダクターズ、独インフィニオンの工場休止など、半導体業界はまさに災難続き。特に、自動車産業に必要な半導体が不足し、計画通りに生産できず、今年4~7月の世界の自動車生産は240万台減ると言われている。

 今のところスマホ用の半導体が不足している様子はないが、特に日本の自動車産業はトヨタ自動車の「かんばん方式」に倣い、在庫を最低限にしてきたこともあり、半導体不足は生産計画にモロに打撃を与えている。

 こうした中で、アメリカのバイデン新米大統領は、台湾に依存している半導体製造を減らし、アメリカでの半導体製造の「自給率」を高めようと、1月に「国防権限法」の一部として「CHIPS法」(Chips for America Act)を制定した。1プロジェクト当たり最大30億ドル(約3200憶円)の補助金を出すとしている。

 特に台湾のTSMCは受託半導体製造で世界の56%のシェアを持つ企業で、微細加工最先端の5ナノ(半導体線幅、ナノは10億分の1メーター)製品で独占しており、現在、3ナノ、2ナノの工場も建設中である。これに韓国サムスン電子を加えると両者の世界シェアは70%に上る。

 4月8日、バイデンは「国家安全保障」の懸念から規制する「エンティティ・リスト」に、スーパー・コンピュータ開発に携わる「天津飛騰新息技術」などの中国の7企業・団体を加えると発表した。これらの企業が中国の「極超音速兵器」などのハイテク兵器の開発に関与したと判断した。そして、「天津飛騰新息技術」などにTSMCが台湾企業KY社を通じて半導体を供給している疑惑が浮上。TSMCを中国共産党が支配することにでもなれば、壊滅的な打撃を受ける。アメリカは「TSMCは中国共産党との関係を切ることができない」と観ているのだ。

 米半導体業界も反応。インテルは2.2兆円を投じてアリゾナのチャンドラーに工場建設を発表。インテルは自社「生産一貫」のマイクロプロセッサーだけの製造から、台湾のTSMC同様に「受託半導体製造」をする決定をした。

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