業績もいいのに株価はなぜ眠る 黒字継続、積極的な中期計画も株価は寝たきり 社員の保守化、新規事業の種がない、そしてあの人

均衡の取れたビジネスモデルで
赤字は終戦直後の2年間だけ、黒字を続ける

 戦後になって勃興した日本を代表するグローバルなモノづくり企業を選ぶとすれば、ソニーグループと本田技研工業は不動のツートップと言っても過言ではないだろう。これに続く第2集団となると意見はそれなりに分かれようが、その中に、キヤノンがランクインする可能性は高いことは違いない。

 2020年12月期の連結売上高は3兆1602億円と、国内の電気機器業種の中では第7位。規模だけを比較すればソニーグループの半分にも及ばないが、海外売上高比率は74%に達するなど、押しも押されもせぬ国際企業の表情を見せる。

 それも米国やアジアといった一部地域に偏重するのではなく、欧州を含めた世界三極でバランスよく商売を展開している。半世紀以上も前より、祖業の銀塩カメラ事業が開拓していった販路とノウハウが陰に陽に活きているのであろう。

 1937年8月に、ドイツの名門カメラ「ライカ」に負けない国産機を作ろうという大志を抱き、いわゆる“戦中ベンチャー”として誕生したキヤノン。現在の姿は三菱系のニコンと並ぶデジタル一眼レフカメラメーカーであり、富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)やリコーと鍔迫り合いを演じる複写機メーカーであり、半導体製造装置でも世界トップを走るオランダのASMLを追随し、国内のパイオニアとしての意地を見せる。精密機器の製造・販売という事業活動を1本の横串として、顧客は一般消費者からオフィス、そしてハイテクメーカーといった具合に幅広い。

 売上が地理的に均衡しているということは、地政学上のイベントリスクに対する抵抗力が強いということであり、ビジネスクライアントが多岐にわたるということは、好不況の波をある程度、構造的に軽減できるということになる。終戦直後の2年間だけ最終赤字に陥ったことを除けば、今日まで一貫して黒字決算をキープしてきたキヤノンの力の源泉は、こうした均衡の取れたビジネスモデルに負う部分が多い。

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