経過を分析、徹底的に探究、法則を抽出する それが頭にない指導的エリート層への失望

コロナ禍に広がる不信や不安と重なり合う
山田風太郎の「戦中派不戦日記」

 日本人は「なぜか」という疑問を起こすことがまれである――。敗戦の翌日、1945年8月16日の日記に当時23歳の医学生はこう書いた。ましてや「『なぜこうなったのか?』というその経過を分析し、徹底的に探究し、そこから一法則を抽出することなど全然思いつかない。考えて出来ないのではなく、全然そういう考え方に頭脳を向けないのである。一口にいえば、浅薄なのである。上すべりなのである。いい加減なのである」と悲憤と失望の筆を走らせた。

 その医学生とは、後に伝奇小説や忍法帖シリーズなどで人気作家となる山田風太郎(1922~2001年)である。彼も突然ハシゴを外された軍国青年の1人だった。

 その膨大な苦悩の記述は「戦中派不戦日記」(講談社文庫)に収められている。昨今のコロナ禍に広がる不信や不安と重なり合いはしないだろうか。

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