俳句の遊歩道(`21/8)

低き屋根沖はきらめく烏賊釣り火
宮入黎子

 鯣烏賊(するめいか)などは、夜になると水深の浅い所に浮上してくるので、それを集魚灯をつけた漁船から釣り上げるのだが、海上に浮かぶ烏賊釣火は美しい。先人のいう「烏賊火燃ゆ対馬に古き月ひとつ 岡部六弥太」と大景もあるが、しっとりと闇を描く「烏賊釣のわが火ひとつにつづく闇 米澤吾亦紅」もいい。掲句はその闇の中の美を見ているふうで前景の「低き屋根」は、東山魁夷画伯の「古都」の屋根瓦を連想させる着想で、遠景の烏賊釣火を包む闇とともに、その陰影の美の描出に挑戦している。

 別に「烏賊火より遠き灯のなし日本海 吉原一暁」がある。

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