第18回 老いらくの恋

60歳を過ぎて激しい恋に落ちる
「老いらくの恋は、怖るる何ものもなし」

 私は何年か前に傘寿を超えたが、まだ恋心を失ってはいない。恋は、相思相愛ではなくとも一方的な思いだけで成立するのがいい。

 川田順は、「老いらくの恋」の代名詞のような存在である。漢学者で貴族院議員の川田甕江の三男に生まれ、東京帝国大学法学部卒。住友総本社に勤務、常務理事を勤めた後「自らの器にあらず」と総理事就任を断って歌人に転じ「新古今集」の研究者として活躍、昭和41年84歳で歿した。60歳を過ぎて激しい恋を経験する。昭和14年、57歳のとき和子夫人を脳溢血で亡くすが、5年後の19年、旧知の元京都帝国大学教授、中川与之助の夫人、俊子と知り合う。作歌指導をしたりしているうち、人目をはばかる仲となり、老いらくの恋の当事者として世に知られることになる。

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