ガードレールを突き破った中国 米国の強硬策に戸惑う同盟国の現実

真珠湾まで持ち出し、危機感露わ
全部、米国が仕組んだ仕業と思い込む

 米中関係の緊張激化が止まらない。ジョー・バイデン米政権発足以来2度目となった7月末の両国外交高官会合を前に、米国務省筋は米メディアに対し「(衝突防止の)ガードレール作り」を目指すと話していた。しかし、会談は互いの主張と懸念をぶつけ合うだけの全くの平行線。ワシントンポスト紙の「バイデン政権はトランプ政権以上に中国にきついかも(China may be having a harder time with Biden than with Trump)」(7月27日付)によると、中国側の謝鋒(シェ・フォン)外務次官は会合冒頭から、ウェンディ・シャーマン国務副長官に対し「バイデン政権は中国を国内的にも同盟国に対しても『仮想敵国』に仕立て上げるような動きをしている」と厳しい対決姿勢を示した。

 そして、政権関係者の一部には現在の中国の対米姿勢を、米国人が最も感情的に反応する1941年の日米開戦の契機となった真珠湾攻撃時の日本に例える向きもいて「反中国一色になるような世論誘導」ともとれると指摘。外交交渉での相手をまず牽制する手段としての言及ではあろうが、「真珠湾」という過激な言葉を使うのはやはり中国の強烈な反発心の現れで、「ガードレール作りには程遠い雰囲気だった」(米外交筋)という。

 中国のここまで頑なになった対決姿勢の裏側にあるものを探り、米中関係打開の一助となることを目指して4本の特集記事を組んだのがフォーリン・アフェアーズ誌の7・8月号だ。中国人の根底にある対米観、現在の基本外交姿勢、習近平主席の対米・対世界戦略形成上の個人的思惑などを解説している。

 まず、長く中国政府の外交ブレーンを務める北京大学国際関係学院長の王緝思(ワン・ジースー)が「反中国の陰謀か(The Plot Against China?)」で米国の対中外交関係者が見落としがちな事実を次のように指摘する。それは中国外交担当者の基本的対米姿勢で、「米国が中国を怖がると同時に嫉妬してあらゆる方法で封じ込めをしようとしている」と中国側が思っていることを米国の政策エリートたちは明確に認識している。しかし、「この敵対的緊張関係は米国が数十年にわたり共産党支配を弱体化させる目的で国内事情介入を裏側から続けることにより作り出したものである、と中国側が考えていることをこれらのエリートの多くが認識していない」と指摘する。

 1989年の天安門事件以後に起きた1990年代のファルンゴン(法輪功)の信者拡大や2009年の新疆・ウイグル自治区での民主化要求暴動、2010年の民主化活動家・劉暁波(リウ・シャオポー)の獄中でのノーベル平和賞受賞、2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘運動」など、全てが共産党支配体制を崩壊させ中国を西側秩序に組み入れようと米国が裏で糸を引いている、と中国指導層は信じているという。

ここから先は

4,526字
この記事のみ ¥ 200