NEW LEADER LIBRARY📚(`21/6)

📖作者は現役のテレビ局の報道記者
冤罪と死刑制度を巧みに問題提起
親族の癒しがたい傷跡を丁寧に描写

『蝶の眠る場所』 水野 梓(ポプラ社1800円+税)

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 本書のテーマは冤罪。冤罪ものというと読み進めるのが面倒くさそうに感じるかもしれないが、謎がつぎつぎ提示される推理小説仕立てなので最後まで飽きさせない。 

 作者は現役のテレビ局の報道記者。主人公もシングルマザーのテレビ局ディレクター。報道局のデスクだったが部下のちょっとしたミスを「やらせだ」と視聴者に追及され、その責任を取らされて深夜のドキュメンタリー番組の制作部に左遷され、ヒラのディレクターに降格。だが、そこで小学生の転落事件を取材していく過程で、ある死刑囚に冤罪の可能性があることに気づき、その取材に突き進む。すると、いじめ、ネグレクト、教育現場の現状などさまざまな問題に突き当たり、またテレビ局の内部事情や、子育てをしながら仕事を続ける難しさなどにも阻まれる。

 そういったサブテーマも書きながら、作者は、謎解きのストーリーを紡ぐ。

 本書が普通の推理小説と肌合いが違うのは、主人公が取材に向かう前後で、シングルマザーでありながら仕事を続ける苦しさが結構な頻度で書き込まれていたり、働き盛りの夫に先立たれた独り身の寂しさも情緒たっぷり書き込まれたりしていることだ。しかし、それが邪魔になるかと言うとそうでもなくすんなり読めるのは、文章が平明でリズムが良いからだろう。

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