細胞ライブ輸送の道を拓いた 理化学試験器メーカー ─サンプラテック─

再生医療をアシストする輸送技術
飛躍のカギはガラスからプラスチックへ

 バイオ分野でいま注目の技術が再生医療だ。再生医療とは、機能障害や機能不全がある生体組織を積極的な細胞利用で再生を図る医療を言う。加齢や疾病、損傷、先天的障害などにより失った機能を再生する。

 山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長がノーベル医学・生理学賞を受賞したのも、iPS細胞(人工多能性幹細胞)が再生医療や創薬の切り札になると目されたからだ。例えば、細胞を培養して人工的につくられたiPS細胞から、いろいろな組織や臓器を再生する。

 その再生医療の周辺技術の1つが細胞を搬送する技術である。細胞を輸送する場合、大きく分けて凍結する場合と、凍結せずにすぐに使える状態で輸送する場合に分かれる。現在のところ、再生医療やその研究に関連する細胞は主として凍結輸送されている。

 だが、凍結輸送すると、細胞死によって回収率が低下する問題や、輸送先で活性状態に戻すための時間と手間がかかる問題などがある。そもそも、凍結保存に適さない細胞も存在する。従って、今後は再生医療研究の進展に伴って、細胞を凍結させずにライブ状態で輸送する需要がさらに拡大すると見込まれている。

 この細胞ライブ輸送技術「iP-TEC」を持つのが、メスシリンダーやビーカーなどのプラスチック製理化学機器を主力とするサンプラテック(大阪市、資本金9800万円、従業員50名)である。この技術は、iPS細胞などの細胞の輸送に使われるほか、最近のCOVID19、いわゆる新型コロナウイルス感染症ワクチンの輸送でも採用されている。

 同社は1960年、現会長・加藤光政によって創業された実験器具のメーカーである。加藤の創業コンセプトが「ガラスをプラスチックに変える」だった。

 理化学実験器具は当時、ガラス製が多かった。これに対してプラスチック製は割れにくく、しかも単価が安い。ただ、そうした利点があるものの、逆に金型などへの初期投資を回収して採算が合うまでが大変だった。

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