NEW LEADER LIBRARY📚(`21/8)

若者の純真な目で滅亡していく平家を描く
成功し過ぎると次の変化に対応できない
バブル経済崩壊以降の日本に重なる

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『さざなみ軍記』 井伏鱒二(新潮文庫649円+税)

 この小説は、滅亡していく平家を淡々と描いた小説である。なぜ今それを取り上げるかというと、滅亡していく平家の姿が、バブル経済崩壊以降の日本に重なるからである。

 平家は日宋貿易などで財力を築き、政略にも長けた清盛の強力なリーダーシップのもと財力と武力で朝廷の官職を一族で独占する。このことが平家の驕りとされ、追い落とされた公家や源氏その他の恨みを買うことになり滅びの道をたどったとされる。だが、本当のところは中国大陸における金の勃興に伴う国際情勢の変化に乗じて貿易で富を得るという新しい方法で実権を握ったにもかかわらず、旧体制の朝廷に入り込んで、貴族の真似をして納まり返ったからであろう。中国大陸の変化の一方で日本国内も地方武士の勃興という地殻変動が起きていて、その変化に対応できていなかったのである。ある環境に適応して成功し過ぎると次の変化に対応できない、つまり過剰適応すると環境の変化に耐えられない。人間に限らず生物一般の法則でもある。

 この小説は、清盛亡き後の物語だ。日本で言えば、エズラ・ボーゲルに「ジャパンアズナンバーワン」と褒められその気になって、バブル経済に酔った後、国際情勢の変化と技術革新の変化に対応できず、ハゲタカファンドに食い荒らされる頃からということになる。

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