『糸』と『縄』にみる宰相の葛藤

ニクソン怒らせた佐藤の裏切り

 半世紀前の沖縄返還は「糸」を売って「縄」を買ったと言われた。米国が沖縄を日本に返還する代わりに日本が米国の求める繊維輸出の自主規制を受け入れる“密約”があったとされるものだ。果たしてこれは真実なのか。

 「糸」と「縄」の取引説については、これまでさまざまな書物が出ているが、最も真相に近いのは返還交渉に当たって佐藤栄作首相の密使を務めた京都産業大教授・若泉敬の「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(文芸春秋刊)だろう。彼は米国から「糸」と「縄」の取引を直に迫られた当事者である。若泉の著書に従うと、「糸」と「縄」の取引は「あった」とも言えるし「なかった」とも言える。なぜなら、米国が迫った取引について佐藤が応じる振りをしながら約束を果たそうとしなかったからだ。

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